2010年08月01日

8月こそ点検したい、1年間のクラブの方向性(1) - クラブビジョンを見直す

今までかなり重い話が続きましたので、今度のシリーズはより実用的・具体的な話題に移ります。

新しい期が始まって1カ月。皆さんのクラブでは、既に年間のビジョンや目標を立てていますでしょうか。今回のシリーズは、「8月こそ点検したい、1年間のクラブの方向性」と題して、「クラブビジョン」「具体的目標の設定」「年間計画」「未チャータークラブのビジョン・目標設定」の4つを紹介していきます。今回は「ビジョン」(会長向け)についてです。

クラブ会長のマニュアルを見ると、他の役員に比べてそれほど具体的な内容は書いてありません。それもそのはず、会長は実務以上に注力しなくてはいけないことがあるからです。それは、責任者としてビジョンを設定し、目標を常にモニターし、クラブを一定の方向性に導くことです。

期初にクラブとしてのビジョン、あるいは「どのようなクラブでありたいか」を会長が発表されたクラブが多いのではないでしょうか。さて、1カ月経ち、それは例会運営にどう反映され、またクラブは実際にどういった方向性に向かおうとしているでしょうか。

以下に、ビジョンに関するチェックポイントを挙げてみました。もし皆さんのクラブの例会を見て、「あれ、こんなはずではないのでは?」「今一つクラブの方向性に自信が持てない」と迷われているようでしたら、以下の点を検証してみてはいかがでしょうか。

1. メンバーやクラブ全体のニーズや現状を踏まえたものであり、会長や役員個人がやりたいことに偏っていない。

たとえば、会員はイベント続きで疲れ気味の時に、「今年は去年以上にイベントを増やして、盛り上げていきましょう」といったビジョンを設定したら、会員のお疲れ感はさらに増していく可能性があります。あるいは、会員も順調に増えて、クラブ内には他クラブを訪れるなど積極的な会員も多く盛り上がっているところで、「面倒なことは避けていきましょう」的なビジョンでは、会員は物足りなさを覚え、他のクラブや他の活動のほうが魅力的と感じてしまうかもしれません。

「自分がイベントをやりたいから、今年はイベントをたくさんやれば、きっと楽しいクラブになるだろう」「役員が疲れ気味だから、新会員も含めてみんなそうだろう」と思い込むのは早計です。今からでも遅くはありません。この1ヶ月間クラブ全体を見渡して、もしクラブの今の空気や会員のニーズに合っていないビジョンがあれば、それに合わせて変更することは決して悪いことではありません。

2.ただ会員に合わせるだけではなく、1年後のクラブが今よりもより成長している姿を想像できるビジョンにする。

「みんな仕事や家庭との両立で大変だから、今年はぼちぼち楽にやっていこう」「とりあえず現状維持できればいいのでは」
上記にあるとおり、お疲れ気味の会員が多い中で行け行けどんどんのビジョンを立てても、会員のさらなる疲弊や反発を招く可能性があります。しかしながら、トーストマスターズは教育機関であり、仲良しクラブではありません。1年後の会員やクラブ全体に「成長」、つまり今よりも会員がスキルアップしているなど、「クラブ全体としてのレベル(質・量)が何らかの形で向上している」ことが描けないのであれば、それは教育団体としてのビジョンに見直しの余地があるということではないでしょうか。

たとえば、会員が疲れ気味であれば、「基本に忠実に、即興スピーチ・準備スピーチ・論評の3本柱で、それぞれの会員に合ったスキルアップの場を提供する」といった内容のビジョンではいかがでしょうか。似たような方向性であっても、「会員の負担を少なく、あまり特別な企画はせずに、会員がそれぞれできる範囲でスキルアップできるようにする」と言うよりも、ずっと前向きではないでしょうか。

「このクラブに入っているメリットは何?(What's in it for me?)」という問いに答えられるようなビジョンを目指したいものです。

3.「イメージできるビジョン」にする。具体的で、定量化できる目標を導き出せるようなビジョンを立てる。

仮に、「基本に忠実に、トーストマスターズの基礎プログラムを重視し、それぞれの会員に合ったスキルアップの場を提供する」というビジョンがあったとしましょう。
1年後、このクラブはどうなっているかを想像してみましょう。それも、できるだけ具体的にです。以下、イメージの例を挙げます。

「例会平均出席人数は今よりも5人ほど多い25人くらい。今よりも会員が7〜8人純増していて、雰囲気も賑やか、それだけ学びも多くなっている。今は1回に1人か2人しかゲストが参加していないが、1年後には平均5人は訪れるようになっている。スピーチに特に熱心な、昨年末入会の会員4人(できれば名前も具体的に)が今期中にCCを達成。CLマニュアルも、毎回のマニュアル交換タイムが功を奏して、そろそろ2人くらいはCL達成者が誕生するだろう。今は例会の4本のスピーチが全て基本マニュアルのことが多いが、今後はそのうち1本は上級マニュアルで、スピーチ本数も可能な限り5本にしたい。今年前半に入会した5人の会員のうち2人が来年のインハウスコンテスト(日・英)で、それぞれ委員長を務め、次の役員候補にもなっている。論評ワークショップを期の前半に開催し、会員が論評について深く学べる機会を設ける。そのこともあり、1年後のクラブ全体の論評スキルの高さは、他クラブのゲストからも評判になっている。」

そう考えると、具体的な教育・会員目標も見えてきます。(目標の設定は、次回掲載します)

これが、「楽しいクラブ」「ためになるクラブ」というビジョンならどうでしょうか。具体的なイメージは、あまり湧きにくいのではないでしょうか。なぜなら、言葉が抽象的すぎるからです。ある人によっては、楽しいクラブとは、「楽しいスピーチが常に聞けるクラブ」かもしれませんし、別の人にとっては、「会員間の交流の機会が多いクラブ」かもしれません。
その場合は、「○○クラブが目指すべき、楽しいクラブとは?」「ためになるクラブとは?」と考えて、より具体的な言葉で表した方が、会員にメッセージとして伝わります。

クラブ設立のフレームワーク」でも述べましたが、「イメージを抱く」ことは、ビジョンを設定する立場であれば特に重要です。それを他の役員や会員にも伝わるような具体的な言葉で表すことで、クラブにより一体感が生まれます。

4. キャッチフレーズを作る。
上記を現実にするために、キャッチフレーズやキーワードを作ると効果的と言われます。たとえば、
"EnVision Your Future" (Visionaries TMC、2010-11)
"From Tradition to Innovation" (日本橋センチュリーTMC、2009-10)
「フロンティア・スピリット」 (横浜フロンティアTMC、2008-09)
「みんなで作ろう溝の口クラブ」 (溝の口TMC、2007-08)
などです。
但し私自身はあまりキャッチコピーを作るのが得意ではなく、上記も実はほとんどが、ビジョンを聞いた他の役員が「つまり、こういうことですね」と発言した言葉がキャッチフレーズになった、という経緯ですので、具体的な作り方は割愛します。逆に言えば、会長自ら考えたものでなくても、クラブのだれかが付けてくれることがあれば、それをクラブ全体で掲げてもよいのではないかと思っています。

キャッチフレーズの効果は、会員にとっても覚えやすくメッセージが伝わりやすいこと、聞くだけでクラブの方向性が想像しやすいことです。これがなかったからと言ってクラブの命運に関わるようなものではありませんが、こういったことを考えるのが得意な方は、ぜひ挑戦してみてはいかがでしょうか。

次は、クラブ会長・教育担当向けに、DCPプログラムをはじめとした、ビジョンに忠実な目標設定の具体的やり方についてお伝えします。
posted by Ami Fujiyama, DTM at 09:31 | 東京 晴れ | TrackBack(0) | ビジョン・目標設定 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年07月25日

優れた英語クラブを育てるには - (4) 共存し、無理な「仲良し関係」を強要しない、自然なクラブ間関係の在り方

期が変わり、エリア割が新しくなりました。特に首都圏では、異なる言語間のクラブでの関わりが増えていくことになると思われます。

その中で、「トーストマスターズに言語は関係ないのだから、日本語クラブの人も英語スピーチに挑戦するべきだし、英語クラブの人も日本語スピーチをするべきだ」
「日本語クラブも英語クラブも、今後は一緒にコンテストも役員研修会も開いて共存共栄するべきだ」
という主張を最近複数の方から聞きました。

一見、まっとうな考えに見えるかもしれません。しかし1人のクラブビルダーとして、私はそれに警鐘を鳴らしたいと思います。そのポイントは2つあります。
1. 個々の考え方は自由だが、それを個別のクラブやメンバーに強制することはできない。
2. 真の「共存共栄」は、必ずしもお互いがお互いのクラブと「仲良し」になることではなく、共通のトーストマスターズの基礎を理解することにある。


順に説明いたします。

1. 個々の考え方は自由だが、それを個別のクラブやメンバーに強制することはできない。
確かに、英語クラブのメンバーの大多数が日本語スピーチに興味を持っている、あるいはその逆であれば、上記の考えは大いに成り立ちます。

しかし、日本語クラブに所属の人は、英語云々よりもあがり症の克服に興味を持っていたり、あるいは仕事では日本語でプレゼンする機会がほとんどだったりすることもあります。あるいは英語クラブ所属の人の中には、仕事でのコミュニケーションはほとんど英語で、かつ母国語も日本語ではない、という方もいるかもしれません。もちろん、今後英語が仕事で必要になってくる人も中にはいるでしょうが、その時に英語のトーストマスターズをやるかどうか、やるならいつどういった形で参加するかを決断するのは、その本人です。やみくもにクラブが会員に多言語化を強制することはできませんし、増してエリア・ディビジョン・ディストリクトが各クラブに強制するべきでもありません。

現時点で英語(あるいは日本語)をいくらやろうとしても興味が湧かない(使う機会がない、楽しめない)人に、「トーストマスターズで今後英語クラブと関わるから、英語を学ぼう」「日本語クラブと一緒にコンテストをするために、日本語スピーチを練習しよう」と言ったところで、果たして誰が興味を持つでしょうか? どれだけの成果が挙がるのでしょうか?

人の興味は、押しつけでは生まれません。

それぞれの人が別のバックグラウンド、仕事・生活環境を持っています。個々の会員が必要でないと思うものまで「やらされ感」を持って取り組まなくてはいけないようなクラブ・エリア・ディビジョン・ディストリクトの運営が仮にあるとするならば、逆ピラミッドではなく、順ピラミッド組織そのものです。そしてそれは、会員のトーストマスターズ全体への不信という最悪の結果につながりかねません。

私も中学1年の終わりまでは、ほとんど英語に興味を持っていませんでした。ある日突然目覚めたのは、留学に関心を持ち、英語を学ぶ一大目的ができたからでした。もしそれがなければ、学校がいくら「役に立つからやれ」と言っても、目的もないまま何とか点を取るためにやったというのが精いっぱいでしょうし、そのような気持ちで勉強していたら、今頃英語の知識は頭から完全に抜けていたでしょう。(実際、そのような気持ちで勉強していた他の科目は見事に頭から抜けています・・・)

もちろん、目標志向は人によって違います。「○○さんもやるなら私も」というようなケースもありますし、やってみたら意外に面白い、ということもありますので、「きっかけづくり」「機会の紹介・情報交換」は大いに結構なことです。おそらく今回のエリア再編性の意義もそこにあると信じています。

しかしそれを全ての人に押し付けることはできないのです。「自分がトーストマスターズがきっかけで英語(あるいは日本語)に興味を持ったから、他の人も興味を持つだろう」というのは、はっきり言って独善だと私は思っています。

その人は興味を持ったかもしれない。その人は、英語と日本語の両方でスピーチすることに何の苦も感じないかもしれない。ところが別の人には、それは時間的にも心理的にも大変な負担であるということも、時にはあるのです。それは、クラブ役員推薦の時に、「役員になってみませんか?」と色々な人に薦めるけれども、どうしてもやりたくない人や時間が取れない人には押し付けない、ということと同じです。

だからと言って、英語と日本語、バイリンガルクラブを無理に分断する必要はありません。「このような機会がありますよ、ご興味あればどうぞ、でも参加は自由です」というように、片方の言語しか参加しない人の意思を尊重し、後ろめたさを感じさせない雰囲気作りが大事だと思います。

2. 真の「共存共栄」は、必ずしもお互いがお互いのクラブと「仲良し」になることではなく、共通のトーストマスターズの基礎を理解することにある。

「日本語クラブと英語クラブが一緒にコンテストや役員研修会をお互いに未知の言語でやる」ことイコール共存でしょうか? 前述のように、お互いのメンバーの多くが興味を持てばそうでしょう。

しかし、何度も言いますが、人の興味は、押しつけでは生まれません。
片方の言語しか理解できない人がかなりの割合でいた場合、それを30分も1時間も「半ば強制的に」聞かされるのは、たとえよいスピーチであっても、時間がもったいない、苦痛と感じる人も多いのではないでしょうか。そのような雰囲気で、どれだけ「日本語と英語が一緒になってイベントを盛り上げよう!」という空気が生まれるでしょうか。もし私がその立場だったら、おそらく苦痛に感じます。言葉が分からないというよりも、その「やらされ感」にモチベーションが下がると思います。もちろん、そのようには感じずに音感やビジュアルで違う言語を分からなくても楽しんだり、かえって勉強したいというモチベーションになる人もいるでしょうが、ここは大人の組織、少なくともその選択の自由は参加する個々の会員や役員にあるべきです。

私は小学校の頃、友達がほとんどいませんでした。先生はそれを心配し、無理に他の人と「くっつける」ことをしました。しかしその結果は、お互いに関心を持てず、私はかえって周りとの関係の取り方が分からなくなってしまいました。やがては、まだ10歳にもならない頃から人づきあいがすっかり嫌になってしまいました。個々の相手は本当はきっといい子だったのでしょうが、「無理やり仲良しにさせられようとするやらされ感」がしんどかったのです。

では、本当に人に興味を持ち始めたのはいつかと言えば、カナダの大学に入った時、まず日本からの留学生と共通の話題があって仲良くなり、その後ハウスメイトやインターンシップの職場で、韓国や香港の人と仲良くなり、初めて周りの人と真の意味で楽しく交流できるようになりました。誰かの紹介で知り合った人もいますが、さすがにその年で、「仲良くなりなさい」と人から言われたわけではもちろんありません。

きっかけは押しつけではやってこない、その人に合った機会が訪れたら、自然と興味がわいてくるものだと思います。
それでは、クラブ間・エリア・ディビジョン・ディストリクトの運営における「共存共栄」のための共通語とは何でしょうか。

私はそれは、トーストマスターズの基礎にあると思います。それは、逆三角形の考え方であり、「メンバーのため」を想う心であり、コミュニケーションとリーダーシップ教育の両立です。すなわち、トーストマスターズのマニュアルに書いてあることです。

そういった「基礎」を、ディストリクトリーダーからクラブ役員、そしてできる限り多くの会員が知れば、言語によって分けたりくっつけたり恣意的にすることなく、「メンバーのために」なる方向で、全体が動いていき、分けるところは分け、協働できるところは協働し、自然と情報が循環する、そう思うのは理想論でしょうか。

たとえ理想論だったとしても、日本語クラブ、英語クラブ、バイリンガルクラブが真に共存するためには、無理な「仲良し関係」を強要しない、自然にお互いが「機会」を提供し合うクラブ間関係こそ、ボランティア組織であるトーストマスターズには必要だと考えています。
posted by Ami Fujiyama, DTM at 06:28 | 東京 雨 | TrackBack(0) | 教育プログラム・例会の各役割 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

優れた英語クラブを育てるには - (3) Weak Clubにならないためのチェックリスト

以下は、私自身が英語クラブに所属していた経験から、クラブの健全性に関する、注意を要する兆候を挙げました。

平たく言えば、以下の項目がいくつも当てはまるようであれば、「トーストマスターズクラブ」ではなく、「英語同好会」になっている可能性があると私は思います。

一部の項目については、英語クラブだけでなくバイリンガルクラブや日本語クラブにも当てはまりますが、特に英語クラブでは、優れたクラブと残念ながらそうでないクラブの差が顕著な傾向にあるため、今回の話題の中に入れさせていただきました。

1. 「私は英語を習いにここに来ている」という人が圧倒的多数。
繰り返しになりますが、トーストマスターズはコミュニケーションとリーダーシップを学ぶ場です。

私自身は中学2年から高校3年まで、空き時間のほぼ全てを英語の勉強に当てていました。その時の経験から言えることですが、英語を(子どものころからやっていたのではなく)勉強によって一定のレベルを身につけるには、単語を覚える、最低限の文法は理解する(文法用語を覚えるかどうかは別として)、など、机の上での地道な勉強も必要です。

つまり、トーストマスターズはその理念の違いだけではなく、テクニカルにも、英語学校の代替にはなり得ません。文法や読み書きの知識もほとんどない一からの英語初心者が、トーストマスターズの例会に通うだけで、他は何も勉強しないで英語がぺらぺらになるということは、余程のバックグラウンドを元々持っていない限りはあり得ないと私は思っています。もちろん、自分で努力して勉強した上で「英語でコミュニケーションする」実践の場としてトーストマスターズを活用するのは大いに結構なことだと思いますが、語学習得が絶対的な目的になっていると、どうしても「コミュニケーションとリーダーシップ」というトーストマスターズの根幹が見過ごされ、以下に挙げるような「歪み」が生じてきます。

2.同じ人が毎年役員をやっている。
これは英語クラブに限った事ではありませんが、要は世代交代ができていない、ということです。その理由の一つとしては、組織の運営もトーストマスターズの大事な教育プログラムの一環である、ということが見過ごされていることではないかと私は思っています。「私は英語を話すことにしか興味がないから、運営には関心ない」という態度をずっと放置していると、このようなことになる傾向にあります。もちろん入会の取っ掛かりは英語でのコミュニケーションが目的でもよいと思いますが、運営の重要さを入会後に理解していただき、もし少しでも意欲ある人がいればどんどん入ってもらう、あるいはどうしても役員ができない人には「小さな貢献」を促したり、少なくとも組織の概要を理解してもらう工夫は必要です。そのためにも、前の記事で挙げた、「英語だけでトーストマスターズをやるためには、現実問題として一定のレベルが必要であることを、雰囲気又は明確な規定で知らせる。」ということが必要になるわけです。

同じ人が役員を何年もやっているクラブでは経験者揃いのため、確かに例会や普段の運営にあまり波乱は起きず、一見優良なクラブに見えることが多いです。むしろ、「この人に任せておけば安心」といった空気さえあるでしょう。しかし、そういった「キーパーソン」が何らかの事情で複数抜けてしまうと、途端にweak Clubになってしまうという例は何回も散見しております。

実際、リーダーシップ過程は、英語でマニュアルを読んだりメールや議事録のやり取りをしますので、かなりのリーディング・ライティング力の上達につながります。その点を強調することで、最初は英語スピーチ目的で入った会員に、運営への参加を促すこともできるのではないでしょうか。

3.日本語・バイリンガルクラブに対する偏見。
残念ながら、日本語でスピーチをやっている人を見下す傾向、あるいは、「スピーチを日本語でするなんてあり得ない」という態度をする人が多いクラブが、「英会話同好会」化したクラブほど多く見受けられるように思います。一方面白いのは、非常に優秀なスピーカーやリーダーが多い優れた英語クラブほど、「お互いを認め合う」クラブが多い傾向にあるように私は感じます。

英語クラブの方が日本語スピーチを実際に(デュアルメンバーやゲストスピーカーとして)やるかやらないかは個人の自由ですし、日本語クラブの方が英語スピーチをやるかどうかも自由です。しかし、トーストマスターズの世界では、国際共通語こそ英語であれ、日本語の教育プログラムと英語の教育プログラムとの間に上下関係は一切ありません。日本語(母国語)で学んだ方が早く習得できることもありますし、逆に外国語だからこそ気付くこともあります。例えば、最近グローバル人材と叫ばれますが、それは単に英語が話せることではなく、英語できちんと自分の考えを論理的に伝えられることであり、論理的な構成について学ぶには、母国語でもスピーチしてみるのが人によっては早道だということもあります。

「英語でスピーチをやっているから偉い」のではありません。英語onlyから始めた私が日本語スピーチに最初に興味を持ったきっかけも、「母国語でスピーチがろくにできないのに、英語で人の心に響くスピーチなんてできるわけがない!」と思ったことでした。マニュアルを読めば読むほど、トーストマスターズ≠英語ということが見えてきますし、優れた英語クラブでは多くの役員がマニュアルをきちんと読みそれを理解し、新会員オリエンテーションやインフォーマルな場などを通して会員に伝えているように見受けられます。

4.論評の質の低下、もしくはスピーカーなど特定の役割への希望集中。
トーストマスターズでは、論評も立派な練習です。完璧である必要はありません。しかし、「人のスピーチの論評をしているのに、その論評で自分の話を始めてしまう」。「人の話をよく聞いていないのが明らかである」。あるいは、「細かい文法・発音などの側面に終始しすぎ、プロジェクト目的やスピーチの構成・メッセージ性などを見ていない論評者が多い」。もしこのような傾向にあるのであれば要注意です。

「自分が話すことだけに興味があり、他の人の話を聞いていない」「スピーチの目的が人に何かを伝えることではなく、英語を話し、それを改善してもらうことを期待している」クラブは、論評を通した学びの効果がさほど期待できず、やがては例会の質全体が下がってしまう傾向にあります。

「スピーチなど大役が当たった時は出席するが、ヘルパーが当たった時は出席しない」という方が多い場合も注意を要します。1番で挙げた、「私は英語を習いにここに来ている」という人が大多数ということの裏返しの可能性が高いからです。

さて、もし上記のような兆候に皆さまのクラブが当てはまるとすれば、役員を中心にトーストマスターズのマニュアルをきちんと読む、「Moments of Truth」のワークショップを実施する、などをお薦めいたします。あるいは、前回の記事にある、「英会話同好会化」しないための、ぶれない工夫について、ご参考にされてみてはいかがでしょうか。
posted by Ami Fujiyama, DTM at 05:41 | 東京 雨 | TrackBack(0) | 教育プログラム・例会の各役割 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年06月28日

優れた英語クラブを育てるには? (2) - 「英会話同好会化」しないための、ぶれない工夫

以下は、私が合計5年半以上英語クラブに所属していた間、そして今までに数々の英語クラブを見学した際に感じた、質の高い英語クラブとそうでないクラブの差をもとにした考察です。前回と同じで、個人的な見解であり、特定のクラブやグループなどを代表しているわけではないことをはじめに申し上げておきます。

1. トーストマスターズクラブは、言語を手段としてコミュニケーションとリーダーシップの練習をする場であり、語学習得が唯一絶対の目的ではないということを、入会段階から周知する。

たまにゲストコメントで、「私は英語を勉強するためにTMに来ました」「英語は全然話せないのですが、トーストマスターズで話せるようになるかと思って見学しました」という方がいらっしゃいます。バイリンガルクラブでもたまにそのようなコメントがあるのですが、その場合はこのように答えています。

「ご見学ありがとうございます。 トーストマスターズは、確かに英語の上達には役立つかもしれません。ここは、英語を一つの手段として、人前でのコミュニケーションやリーダーシップをお互いに助け合いながら上達する場です。私たちは英会話学校ではありませんので、先生はいません。全員が先生です。英語を話す機会もありますが、同様に人の話を聞いたり会の運営を手伝うのも、大事な教育プログラムの一つです。英語の経験が浅い会員もいらっしゃいますが、他の場所や独学で英語を学びながら参加しています。もしそのような主旨にご賛同いただけるようでしたら、いつでもまたお待ちしております。」
その上で、例会後の時間や二次会で、必要であれば役員からフォローします。

上記のように、前回の記事で書いたことと同じような内容を、例会の場でもゲストや新会員に説明し、入会前には主旨への同意をいただきます。コンテストがあれば、積極的に運営などに会員の参加を呼びかけます。オリエンテーションを開催し、教育プログラムだけではなく、組織やメンバーの約束など、トーストマスターズ全体の仕組みについて説明します。

「それでは、入会に同意する人が少なくなってしまうのでは」という声があるかもしれません。しかし、 私がこの場で推進したいのは、「持続可能な質の高いクラブ」です。 そこで一番重要なことの一つは「会員の目的意識」だと思います。どんな言語でも、TMの仕組みに納得いただける方に入会いただくことは、長期的にはより自立度の高い、持続可能なクラブにつながります。

2. 英語だけでトーストマスターズをやるためには、現実問題として一定のレベルが必要であることを、雰囲気又は明確な規定で知らせる。

きつい言い方かもしれませんが、トーストマスターズのマニュアルを英語だけで読み、仕組みを理解するのを全て英語で行おうとするならば、一定の英語力は必要です。

バイリンガルクラブであれば、CCマニュアルもCLマニュアルも日本語で存在します。役員マニュアルは英語しかありませんが、分からない場合は前任者が日本語で教えてくれる可能性が高いでしょう。新会員オリエンテーションも、英語のケースもあれば、日本語のケースもあるでしょう。英語でいきなりスピーチが難しくても、日本語から役割に入れますので、入会してから英語を勉強する余裕期間もあります。英語の初心者の方にも馴染みやすいクラブを作ることは大いに可能だと思いますし、そのようなクラブは英語に触れる取っ掛かりとしての社会的存在意義も大きいでしょう。これは、バイリンガルは英語より易しいという意味ではなく、あくまでプログラムの仕組み上の話です。

ところが、英語トーストマスターズクラブでは、マニュアルは全て英語、新会員オリエンテーションも英語です。 役割も全て英語ですので、英語に全く自信がない、という人でも、アイスブレーカーを遅くても数カ月以内には始めなくてはならない状況になります。役員の前任者は、日本語を話せない人という可能性も
あります。もしマニュアルやオリエンテーションを英語だけで読み聞きすることが半分も困難な状況で入会してしまうと、トーストマスターズの仕組みを理解しないまま活動に参加するいう結果にもつながりかねないのではないでしょうか。

役員であれば、極端な例では、自分の役割をきちんと理解しないままマニュアルや憲章と全く外れたことを(悪気はなくても)やってしまう、という可能性も出てきます。これは本人にとっても、クラブにとっても、TM全体にとっても、残念な結果をもたらすことになると私は考えます。

理想論としては、常に英語を手段として使う、目的意識の高い例会を行うことで、一定の水準を保つということです。そのうえで、もし英語初心者だがTMの趣旨に賛同し、英語TMをやりたい、という方には、バイリンガルクラブの中でも初心者にフレンドリーな場所を薦める※、あるいは自己学習・自助努力も含めて、英語クラブでキャッチアップしていく意欲があるかどうかを聞く、という方法が考えられます。

※最近のバイリンガルクラブは、クラブのカラーとして、日本語がメインでその中で英語初心者が英語スピーチに挑戦するのを支えるクラブ、日本語もやりつつハイレベルな英語例会を目指すクラブなど、傾向が分かれている所が多いです。

一方、今度立ち上がる英語クラブ、Visionaries Toastmasters Clubでは、一定の英語力を持っていることを入会要件に入れています。これは、上記のような問題を防ぐとともに、一定の英語レベルでの学習環境を保つということを、クラブが内外に示すことにもなります。

3.言語は手段であるため、無理に英語に縛られない工夫も必要。

例会の言語やメーリングリストなど、英語クラブにおける「公用語」は英語で行うというのは、自然なことですし、そこで日本語が入ってきてしまうと、「日本語で話すほうが楽だから」と、全体の規律の乱れにもつながりかねません。

しかし、たまに、休み時間や二次会でも日本人同士にも関わらず英語で話しかけられ、そこで日本語で何気なく返事をするととても嫌な顔をされた、そんな体験を私もしたことがあります。これは、「友好的にコミュニケーションを学ぶ」トーストマスターズの在るべき姿でしょうか。

言うまでもなく、トーストマスターズはESLのクラスではありません。トーストマスターズにおいての言語は目的ではなく手段です。休み時間や二次会など、TMの「公式な場」でないとみなされ得る場面では、日本語でも英語でも、どちらでも問題ないような雰囲気を作ったほうが、クラブとして友好的な雰囲気が生まれるのではないかと私は考えます。日本人同士であれば日本語でもよし、ネイティブがいる場合は英語で、といったところです。日本人同士なら母国語でたまには話してみることで、外国語ではどうしても伝わりにくかった細かいニュアンスもお互い分かり、会員同士のチームワークを強めることにもつながります。  「日本語禁止」を金科玉条のように強要するクラブでは、親しい雰囲気は生まれにくく、血の通ったコミュニケーションはしづらくなってしまうのではないでしょうか。


4.外に視点を向ける。特に、日本語やバイリンガルクラブと年1回でも交流の場を持つのは効果的。

私が2006年まで日本で所属していた英語クラブ、横浜トーストマスターズクラブでは、1〜3の全てを満たしていただけでなく、アウティング(合宿例会)で日本語を取り入れたり、バイリンガルクラブと合同例会をやったり、日本語クラブで人数が少ないクラブのコンテスト運営に積極的に協力していました。 Visionaries Toastmasters Clubでも、日本語とタイアップした何らかのイベントをどこかでやりたいと話しています。

これにはたくさんのメリットがあります。英語クラブ側としては、年1回でも母国語でのスピーチを実践することによって、母国語コミュニケーションの意義や重要性を会員が認識することにつながります。日本語クラブであれば、英語スピーチに少しでも興味を持つきっかけができるかもしれません。バイリンガルクラブであればバイリンガルクラブ同士の交流と同様に、違ったカラーのスピーチやクラブ文化に触れることができます。そしてお互いに、言語は違っても共通の目的を持って活動しているということが分かります。

次回の記事で詳しく書いていきたいと思いますが、ここで肝心なのは、「お互いの言語や文化を押し付けない」「お互いが平等な関係として尊重し合う」ということです。お互いに合意できる言語をメインの言語にして、無理ない範囲で、無理ない頻度で行うとよいでしょう。

posted by Ami Fujiyama, DTM at 00:00 | 東京 晴れ | TrackBack(0) | 教育プログラム・例会の各役割 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年06月27日

優れた英語クラブを育てるには? (1) - 英語クラブ、バイリンガル、日本語クラブについての一考察

最近、「英語クラブ vs. 日本語・バイリンガルクラブ」のような言われ方をされることが、昔以上によくあります。

今まで11の日本語・バイリンガルクラブをチャーターした立場として、かつ最初の3年間のTMキャリアを英語クラブのみで積んだ立場として、私はその定義に「no」を唱えます。

今回のシリーズはややセンシティブな話題であることを承知の上で、トーストマスターズと言語について、私なりの考察を述べたいと思います。個人的な見解であり、特定のクラブやグループなどを代表しているわけではないことをはじめに申し上げておきます。

英語クラブ、バイリンガルクラブ、日本語クラブ。あるいは世界中の他の言語のクラブは、本来ならば言語が違うだけで、コミュニケーションとリーダーシップ力の向上という同じ目的の元、同じトーストマスターズクラブの使命を掲げ、同じプログラムを実行する組織のはずです。

実際、私が最初に作ったバイリンガルクラブ、武蔵小杉トーストマスターズクラブは、英語クラブである横浜クラブ厚木座間クラブがスポンサークラブです。もっと老舗の日本語クラブ、江戸クラブも、英語クラブである東京クラブの人が設立に関わったと伺っております。そして現在でも、多くの英語クラブ、日本語クラブ、バイリンガルクラブが同じ目的を持って共存共栄していると信じていますし、だからこそ私も、7月から武蔵小杉に新しい英語クラブを立ち上げ、近隣の同じ目的を持って活動する英語クラブコミュニティとの交流を積極的に図っていきたいと思っています。

しかし、 中には、コミュニケーションとリーダーシップではなく「英語・英会話を習得する」「とにかく英語話す」ことが第一目的となっているようなクラブ、つまり言葉は悪いですが、トーストマスターズの本来の目的から逸脱して「英会話同好会」「英語サークル」化してしまうクラブ、目的がぶれてしまうクラブも、残念ながらごく一部見受けられます。例えば、ホームページやチラシで「トーストマスターズで英会話を学ぼう」「英語初心者でも、TMで英語がぺらぺらに」といったうたい文句を見たことがあります。
関連する話題については、関西初の日本語クラブ・西宮トーストマスターズクラブで以前ワークショップをさせていただいた時の資料をご覧ください。(日本語TMのすすめrevised.pdf) (2年以上前の資料ですので、やや今の時勢と違った考察や古いデータもあります)

この「英会話同好会化現象」は人や能力云々というよりは、日本では母国語であり、自然と「手段として」みなされやすい日本語よりは、外国語であり、より学習や教養、趣味の対象として、つまり「目的として」みなされやすい英語に、構造的に起こりやすい現象だということではないでしょうか。(その意味では、バイリンガルクラブも英会話同好会化現象と無縁ではないと言えます) そして残念ながら「英語こそが至高の目的」であるかのように活動しているごく一部のクラブは、本来のトーストマスターズの目的を掲げて活動している他クラブと、意見の相違が起こってしまう可能性が高い、ということではないでしょうか。
以下、その仮説をもとに考察を述べます。

まず、たくさんあるTM入会の目的の中で、「英語を上達したい」という目的が一つあるのは、悪いことではありません。事実、トーストマスターズで英語スピーチを実践することによって、英語力の向上・維持につながることも確かですし、その需要もありますので、ベネフィットの1つとしてアピールするのはおかしなことではないと思います。
私自身も、当初は「英語を話すことにもう一度自信を取り戻したい」という理由から入会しました。現在グローバルな視点を持って活躍されている、私が尊敬しているあるTMのリーダー(英語クラブ出身)の方も、「最初は『安い英会話学校だと思って入会した』」と言われていました。

しかし、個々の最初の目的がそうだったとしても、多くのクラブでは、言語を問わず、「コミュニケーションとリーダーシップを学ぶ場」であることを会員はやがて理解し、自分が英語を話すことだけではなく、人の話を聞くこと、クラブの運営に関わることなどにも徐々に興味を持っていきます。一方、一部では英会話同好会化現象が見られます。

この違いは何でしょうか。

それは、クラブ全体として、「英語を勉強する環境」ではなく、「英語でコミュニケーションとリーダーシップを学ぶ環境」を提供しているかどうか。あるいは英語だけではなく、トーストマスターズの全体像を会員が知り関わる機会があるかどうか、というものが大きいと思います。それは、一朝一夕に付け焼刃的にできるものではなく、普段の活動で自然と積み上がっていく、クラブの文化です。 その鍵となるのは、やはりクラブの創設者およびそれに続くクラブ役員の、トーストマスターズに対する姿勢です。

「何を言っているんだ、英語の上達のために活動するクラブで何が悪い」と思われた方が仮にでもこの時点でいらっしゃいましたら、国際本部のマニュアルにある、トーストマスターズの使命を今一度ご覧ください。

THE MISSION OF THE CLUB:
"The mission of a Toastmasters Club is to provide a mutually supportive and positive learning environment in which every member has the opportunity to develop communication and leadership skills, which in turn foster self-confidence and personal growth. "


次の記事では、質の高い、目的がぶれない英語クラブを作るために、具体的にどうすればいいのかを考えていきたいと思います。

posted by Ami Fujiyama, DTM at 15:46 | 東京 晴れ | TrackBack(0) | 教育プログラム・例会の各役割 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

理想のデモミーティング(4) - 「普段着」のデモミーティング

さて、今までの3回のシリーズを見てみると、共通することがあるのではないでしょうか。今回は、最後にそれをまとめたいと思います。

それは、「デモミーティングと言えども、普段の例会と変わらない」ということです。

普段の例会と同じように、バランスのとれた配役を行い、初級者も上級者も学ぶものが多い例会にします。普段の例会と同じように、暖かく、しかし仰々しくもなく、ゲストをもてなします。普段の例会と同じように楽しみ、頑張った人に拍手を送ります。

そう、「デモミーティング」と言って、特別に着飾る必要はないのです。もっと言ってしまえば、「チャーターした後はこんな感じです」と言わんばかりのありのままの例会のほうが、入会前後、あるいはチャーター前後の期待とのギャップや格差が生じることも少なく、より持続可能なクラブになる、と私は思っています。

以前の記事では、洋服屋さんの例えで話をしました。今回の記事では、デモミーティングをデパ地下の、試食・試飲コーナーに例えてみましょう。

同じデパートのチェーンで、A店とB店があるとします。
A店では、たとえば肉や魚、野菜であれば、家庭で調理するような料理法で作った大衆的な料理として、試食コーナーに出します。お茶の試飲であれば、一般的な湯飲みや紙コップで試飲してもらい、煎れるのも通常のデパートのスタッフです。つまり、普段の日常そのものを試食コーナーで再現しているようなものです。

B店では、たとえば肉や魚、野菜であれば、そのデパートオリジナルかつ非売品の特別な調味料を使って味付けして、一流のシェフが作ったもののみ試食コーナーに出します。お茶の試飲であれば、できるだけ高級な湯飲みを使い、ティーソムリエの資格を持った特別なスタッフが煎れたものを出し、非日常感を味わってもらいます。

さて、皆さんがA店・B店を訪れた場合、どちらのお店で買いたいでしょうか?

衝動的に買うなら、B店でしょう。何しろ、試食コーナーでよりよい思いをさせてもらえそうなのは、B店です。しかし、商品の満足度、ひいては長期的なお店への満足度はいかがでしょうか。私は、A店のほうがより長期的には魅力的だと思います。なぜなら、B店では、特殊な調味料、一般的な生活環境とかけ離れたセレブ感の演出など、「食品を買って帰ったところで、自宅で再現できるかどうか」ということに大いに疑問がわくからです。いわゆる、「試食では美味しかったんだけど・・・」現象の原因となってしまう、というわけです。これでは、リピート買いは期待できない可能性大です。試食時と味があまりにも異なる場合は、クレームに発展してしまう恐れさえあります。

それに比べ、A店は、衝動的に飛びつく人は少ないかもしれませんが、実際に家で飲食したときのイメージが想像しやすいと思います。文字通り「看板に偽りなし」の試食で買ってもらったわけので、「失敗した!」と思われることも少ないでしょう。最初にたくさん買ってもらえる「即効性」は期待できなくても、リピーターも増え、長期間同じもの、あるいは同じメーカーのものを売り続けることができる、「持続可能」な購買につながるのではないか、ということです。もちろん、B店のようなことを家で実現できるような余裕のある人もいるでしょうが、このデパートが富裕層や食の専門家ではなく、平均的な収入の一般人をターゲットにしている限りは、長期的にはA店の試食コーナーのほうが、満足度の高いリピート顧客の獲得にはつながることでしょう。

ここで、「A店」のやり方を、通常の例会と同じように行うデモ・ミーティング、「B店」のやり方を、「その時だけ」オール・スターを集める、特別なミーティングだとします。トーストマスターズはワン・タイムのお客さまを求めているのではなく、長期的に一緒にやっていける仲間を求めています。それなら、A店、B店、どちらのモデルが、より多くの満足度の高い会員を集め続けることができるでしょうか。

もしB店のようなことが自分でもすぐできる(一部の上級クラブがこれに当てはまるかもしれません)ような環境を目指すのであれば、B店でも満足度が高い会員が集まるかもしれません。しかし、もし一般的な「コミュニティクラブ」と銘打ってクラブを立ち上げるのであれば、通常最初は「話し方、プレゼンに自信がない」
と言って入ってくるような方のほうが多いですので、オール・スターなTMゲストが来なくなった後に「買ってみて家で作ってみたら、期待とギャップがあった」というのに似た現象が起きる可能性が高いでしょう。

「普段着」のデモミーティングによって、より多くの「トーストマスターズを始めてよかった!」というまだ見ぬ会員がきっと新クラブに増えていくことでしょう。それは、将来のチャンピオンスピーカーかもしれませんし、将来のクラブやディストリクトのリーダーとなるかもしれません。

posted by Ami Fujiyama, DTM at 09:25 | 東京 雨 | TrackBack(0) | クラブ設立 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年06月19日

理想のデモミーティング(3) - 理想の雰囲気を作る

特に複数のクラブに所属している方は経験があるかと思いますが、例会でスピーチをしているときに、「同じスピーチでも、聴衆によって話しやすさが全く違った」
「笑いが取りやすい暖かい雰囲気の例会、逆にユーモアを言うのが憚られそうなほど緊張した雰囲気の例会がある」と思ったことはありませんか? これは、聴衆の温度や、例会全体の雰囲気が大きく関わっています。

私は、まずクラブのビジョンを設定し、それをもとに、例会で出したい雰囲気(例会の空気)を考えます。そして、デモミーティングの雰囲気を、できる限りそのクラブがチャーター後に出したい雰囲気に近づけるようにしています。

具体的には、例えば
「平日クラブで、どちらかと言えばフォーマリティを大切にするが、一方で暖かみや笑いといった要素も大事にするようなクラブにしたい。また、初心者でも入りやすいクラブにしたい」と思った場合、どのようにミーティングの雰囲気を出せるでしょうか。

もし教育担当であれば、デモミーティングのスピーチは、CCマニュアルの中でも、できるだけ#1〜#6のあたりにいる人に、スピーカーとして声をかけます。その上で、1回に1人くらい上級スピーチを配置します。スピーチの内容だけでなく、雰囲気としても、初中級のメンバーが多いクラブでは、上級スピーカーばかりの例会と比べて初心者フレンドリーな空気が自然と生まれるからです。

会長としては、フォーマリティを出すために、例会ではスーツを着用します。但し開会のあいさつでは、1つは笑いや、「へぇ」と関心を引くストーリー、あるいは嬉しくなるようなニュースなどを入れるように心がけます。空気を暖めるためです。そして、例会前後のどちらかで「おめでとう」「ありがとう」メールをメーリングリストに出します。「おめでとう」「ありがとう」が自然に言えるクラブは、暖かい雰囲気が自然と芽生えると考えるからです。

一方、もし、「多少敷居が高く見えても、皆が本気で上達したいと思えるようなクラブにする」ことを目標に掲げたクラブであれば、TMに熱心で、特にスピーチの準備を毎回しっかりとする人や、スピーチの「型を破る」ことのできるような人にも声かけする、メールでの準備連絡はまめに、かつ早めに行う、などが考えられます。そうすると、自然と例会もひとしお「本気モード」になります。

雰囲気と言うと、表面的な演出に聞こえるかもしれません。しかし、例会の雰囲気は、会員やサポーターのコミットの仕方や、失敗に対する許容度、ユーモアを重視するか否か、といった、より深い心理・行動が折り重なって、例会の表面には「雰囲気」として出てくるものです。


雰囲気を意識してデモミーティングを開催することには、以下の利点があります。

1. チャーター後の例会に、デモミーティングを最初から近づけることができる。
新クラブが、将来あるべき雰囲気を出したミーティングをやっていれば、新しい会員も「トーストマスターズの例会とはこういうもの」という意識が芽生えます。結果、自然とチャーター後の例会も、チャーターメンバーを中心とした会員の活躍のもとそれに近づいていきます。

2. トーストマスターズの仕組みだけでなく、「雰囲気」に共感した人が入会する。
皆さんはなぜ今のクラブに入られていますか?
時間や場所の選択肢がいくつかあったとすれば、「自分に合わない雰囲気」のところよりは、「共感する雰囲気」があるクラブに入るのではないでしょうか。その「雰囲気」はただの勘ではなく、考え方が近い人が多い、「類は友を呼ぶ」兆候なのかもしれません。そう考えれば、雰囲気が気に入って入った人は、そうでない人よりも今後そのクラブで長続きする可能性が高まるのではないでしょうか。

例えば、フォーマリティを尊重するクラブでは、入会後も適度な距離を保った付き合い方をすることができるでしょう。また、皆が積極的な雰囲気のクラブは、「ただ見たり聞いたりしているだけでなく、自分も話したり、周りの人の手伝いを積極的にやりたい」という人にぴったりなのではないでしょうか。

なお、クラブ設立マニュアルでは、「1〜2人によるデモミーティング」というものがあります。これは、ゲストをたくさん呼んで、一人が例会の役割や仕組みなどを説明し、実演は要点を除いてしない、というもので、「そのクラブ」というよりは、「トーストマスターズのシステム」に共感した人にサインしてもらうという側面があると思います。

私はこのやり方は、日本のコミュニティクラブでは馴染まないと思っています。以前サポーターが集まらず、4,5人しかTMの参加者がいないことがありましたが、たとえ1人3役、4役になっても、とにかく例会形式でやることにこだわりました。

何故でしょうか。それは、「会の雰囲気を感じてもらうには、本当の例会形式でやらないと分からない」と思うからです。以前挙げた、何十人もゲストを集める方法に賛同しないもう一つの理由も、「雰囲気作り」ができないからです。

日本人は、「場の雰囲気を読む」のが得意と言われます。最近では、特にグローバリズムの話になると、「明確なコミュニケーション」と相対するかのように言われることもありますが、日本のコミュニティ・トーストマスターズクラブでは、その両方を長所として活かせるはずです。言いかえれば、「雰囲気」の重視と日本のコミュニティクラブは、とても相性が良いのではないか、ということです。
雰囲気を重視したクラブの立ち上げ、してみませんか?

posted by Ami Fujiyama, DTM at 09:25 | 東京 曇り | TrackBack(0) | クラブ設立 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年06月06日

理想のデモミーティング(2) - 一人一人の参加者を大事にするオーダーメイド・ミーティング

ゲスト対応という観点において、私はデモミーティングに2つの種類があると思っています。

1. たくさんのゲストを呼び、ゲストに対して一斉に説明した上でサインアップしてもらい、早期のチャーターを目指す。
2.たくさんのゲストが来るわけではないが、一人一人のゲストを大切にもてなし、丁寧に説明する。

前者は、洋服屋さんに例えれば、薄利多売のチェーン店、後者は、オーダーメイドブティックといえるかもしれません。日本でも、両方の手法で、チャーターしたクラブがそれぞれあるのを知っています。

私はと申しますと、コミュニティクラブの立ち上げにおいては、常に後者の「オーダーメイドブティック型」を選んでいますし、これからもそうすると思います。確かに、チャーターまでの期間の短さだけをみると、そのやり方は非効率かもしれません。しかし、よく他の記事でも書いておりますように、私がトーストマスターズクラブにおいて最も重視するのは、「いかに早くチャーターできるか」ではなく、「いかに永く続くか」という持続可能性です。

だからこそ、私が立ちあげているクラブでは、一般のミーティングと同じようにゲストを迎え、ゲストを(「ゲストさんの1人」ではなく)一人一人名前で呼びます。各ゲストの隣には、メンバーが座って、質問に答えます。一人一人のゲストにはコメントを述べる時間があり、例会後のアフターにもメンバーが誘います。一斉送信メールではなく、一人一人にお礼メールを会員担当から出しています。

これらには、以下のメリットがあります。

1. ゲスト・参加者双方の満足度UP。
確かに、いわゆる「チェーン店型」のデモミーティングで、私が立ちあげているクラブよりも遥かに早くチャーターしたクラブもあります。しかし一方で、50人、60人という大勢のゲストが来たにもかかわらず、サインアップしたのは2,3人だけ、というデモミーティングも知っています。 なぜ、そのようなことが起きたのでしょう?

私も上記のようなデモミーティングに参加したことがありますが、ゲスト1人1人が「大切な存在」として丁寧な扱いを受けなかったのが大きいのではないかと思いました。私自身は最初はチャーターメンバーではなく、歴史あるカナダのクラブに入りましたが、その時の事例が分かりやすいと思います。

自分に合ったクラブを探す過程で、とある大学内のクラブと、コミュニティクラブの両方を見学しました。
大学内のクラブではゲストは多かったのですが、その大勢のゲストの中の一人という扱いで、個別に挨拶されたり話しかけられたりすることもなかったので、隣の人にも何となく話しかけづらい雰囲気でした。例会終了後も、会員同士で固まっている感じでしたので、そそくさと会場を後にしました。

次に行ったコミュニティクラブでは、ゲストは私を含めて2人だけでしたが、会員の複数から歓迎の意思表示をいただきました。休み時間に話しているうちに、そのクラブの設立メンバーの一人が、私が30分に1回しかないバスで来たことを知り、帰りは車で送っていただきました。

後日入会したこのトーストマスターズクラブは、生まれて最初に入ったクラブ、Oak Bay Toastmasters Clubです。「自分が大切にされていると思える環境を選ぶ」のは、私だけではないはずですし、それは大勢の新会員が必要な新クラブだって例外ではないはずです。そしてそのような歓迎を受けた会員は、やがては新しくゲストが訪問した時に、同じようにおもてなしの心を持って接するようになる可能性が高まります。

2. コアメンバーの確立。
前者のチェーン店型ミーティングのやり方で、入会の動機とは何でしょうか。
おそらく、お手本のようなスピーチや論評を聞いたり、スピーチマニュアルを見たりして、「入会したい!」と思う気持ではないでしょうか。

しかし、そこですぐに入会に踏み切ったゲストは、リーダーシッププログラムや、組織運営の体制について、十分な説明を受けているでしょうか。(特に英語クラブの場合)英語を学ぶための安い英会話サークルではなく、英語「で」学ぶ場所であるということを、聞いているでしょうか。人から論評を受けると同時に、自分も人のスピーチをよく聞き、論評する立場にいずれなるということを十分理解して入会しているでしょうか。

もちろん、これらの説明がきちんとなされているミーティングもあります。 しかし、早期チャーターしても、数年後には会員が20名を割ってしまったという話もよく聞きます。
私もweak Clubと言われるようなクラブを複数訪れたことがありますが、その際に聞いたコメントの中に、
「役員を頼まれることがあるなんて知らなかった」
「スピーチを毎回当ててほしいのに、ヘルパーや論評ばかり回ってきて困る」
「思ったより英語が上達しない」 などがありました。

それは、スピーチ以外の点での説明をきちんと受けないまま入会し、トーストマスターズそのものについての理解に相違があったのではないか、と思えてなりません。

特に、クラブ立ち上げから最初に入会する20人+αのチャーターメンバーは、スタート時はほぼ無色透明であった初期のクラブに色を付ける、非常に重要な存在です。だからこそ、トーストマスターズのことを知り納得して入会いただいたうえで、自由に色をつけていただきたいと思っています。そのためにも、オーダーメイドなゲストへの説明や、それに対する納得感は重要です。「類は友を呼ぶ」と言いますが、経験上、最初の20人の意識が高いと、その後も意識の高いメンバーが次々と入ってきます。

それは、クラブの将来の運営や役割のメインを担うコアメンバーの確立につながり、クラブの基盤をチャーター時から強くすることに繋がります。

3. 共通の成功体験。
前者の「チェーン店型」ミーティングのやり方で、10人、20人が一気に入ってきたとします。確かに、企画した側は達成感があるかもしれません。

しかし、そこで「設立者」と「チャーターメンバー」の間で「共有された成功体験や感動」はありますでしょうか?

早くチャーターして、コンテスト運営などを通してそういった体験を作ればいいではないか、という意見もあるでしょう。しかし、そもそも「共通の成功体験」がないメンバーに、いきなり「運営を手伝って」と言ったところで、どれだけ「良いコンテストにしよう」というモチベーションを引き出せるでしょうか。もっと言ってしまえば、せっかく「クラブチャーター」という共通の成功体験を持つ機会があるのに、活用しなければもったいない、ということです。これは、以前に書いた「クラブ分割と暖簾分けの違い」に通じるところです。


4. チャーター後の例会の質向上
前回の「バランス型ミーティング」で書きましたように、チャーター後はチャーターメンバーが例会の役割を担っていくことになります。

入ったばかりの人に、論評や「今日のトーストマスター」をお願いするのは難しいため、結果しばらくはベテラン会員や他クラブのゲストでそれらの役割を回していくことになるでしょう。すると、役割が数カ月の間固定されてしまう(決まった人が特定の役割をやる)ことにつながってしまい、例会の活性化という意味ではマイナスに働きます。

あるいは、それでもいきなりチャーターメンバーに全ての役割を振ってしまう、というアプローチもあるかもしれません。しかしその結果、それぞれの役割の基本がおざなりになってしまう可能性も高いのではないでしょうか。例えば、例会を何回も見て、全体の進行や準備の流れを理解してからのほうが、「今日のトーストマスター」は確実によい役割ができるでしょう。あるいは、スピーチを何回も聞き、できればワークショップを受講してからのほうが、基本に忠実な論評ができることでしょう。

オーダーメイド型のミーティングでは、段階的に先に入会したチャーターメンバーが徐々にスピーチをこなし、やがては上記のような役割もこなすようになっているので、会員が20人に達するころには、チャーターメンバーも含めたかなり多彩な例会ができるようになっています。また、徐々に入会していくと、それだけ教育担当やメンターが一人一人に丁寧な説明を行いやすく、それが例会の質にもつながっていきます。 つまり、文字通りの「オーダーメイド」な役割説明と教育プログラムを、新会員1人1人に提供しやすくなります。 それによって、前回述べた、「チャーター前とチャーター後の例会の質の格差」問題も軽減できます。

国際本部(TI)のクラブ設立についてのマニュアルでは、上記で言えば「チェーン店型」ミーティングを推奨する傾向にあります。しかし、これはクラブ憲章で定められているわけではなく、「法の立法主旨」あるいは「プリンシパル・ベース」で解釈してもよいのではないかと思っています。

また、チェーン店型ミーティングが全てよくないというわけではなく、例えばトーストマスターズについて既にある程度の知識があると見込めるグループや、例会以外でも会う機会の多い企業内クラブなどであれば、チェーン店ミーティングは大いに功を奏するかもしれません。米国でチェーン店型アプローチがうまくいくことが多い理由は、既にコミュニティや企業において、トーストマスターズについての理解が高いから、とも言われています。

いずれにしても、逆三角形型のトーストマスターズクラブでは、見込み会員に合わせたアプローチが必要です。 その中で、現在の日本の一般的なコミュニティクラブであれば、オーダーメイドブティック型のアプローチが最も効果的だと私は結論付けたいと思います。

posted by Ami Fujiyama, DTM at 07:57 | 東京 曇り | TrackBack(0) | クラブ設立 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年05月16日

理想のデモミーティング(1) - ゲスト目線のバランス・ミーティング

5月11日、私自身がスポンサーまたはメンターとして立ち上げた11個目のクラブ「川崎トーストマスターズクラブ」が、昨秋の「日本橋センチュリー トーストマスターズクラブ」に続いて無事チャーター要件を達成し、現在国際本部の書類申請結果を待っているところです。さらに、英語上級クラブ「Visionaries Toastmasters Club」の立ち上げに向けても活動中です。

今回は、今まで書いていなかった基本的なトピックとして、立ち上げクラブの最初の数回の例会「デモミーティング」を、「コミュニティクラブにおける、理想のデモミーティングとは何か」という観点から、経験上の要素をピックアップして取り上げたいと思います。 内容は日本における経験則がかなり入っており、TIのサンプルアジェンダとはやや異なるところもあります。しかしながら、TMの基本を押さえ、かつ今後のクラブの持続可能性にも配慮した内容であると考えております。

まず、皆さんが初めてTMに参加すると仮定しましょう。どのようなデモミーティングなら、参加したいと思いますか? 最初のポイントは、「例会のバランス」です。

たまに、デモミーティングだからと気合いを入れて、全日本レベルのトップスピーカーをたくさん招いて、上級者だけで全てのアジェンダを構成しようとするケースが見られます。特に、第1回目のミーティングでそれは多くみられます。

TM経験者を対象とした上級クラブや、そのレベルの人に対象を限定したいクラブであれば、それは素晴らしいマーケティングです。しかし、「話し方に全く自信がない」「人前に立つだけで震える」というような方も、TMにはよくいらっしゃいます。 そしてコミュニティクラブが最も役に立てる、言いかえれば「トーストマスターズで私は変われた!」という嬉しい声が返ってくるのは、往々にして当初そのような悩みを持たれている方が多いです。

もし、自分よりも圧倒的に上手な人ばかりがいる場であれば、そのような方は気おくれしてしまうのではないでしょうか。ましてトーストマスターズは先生がいない場、その圧倒的に慣れた人は、「先生」ではなく、「仲間」のわけですから、余計に「引いてしまう」可能性もあります。 経験上、ゲストできた複数の方がほぼ全員「私にはついていけない」「レベルが高すぎる」というコメントを発して、例会後の周りの会話や二次会にも全く興味を示さずにそそくさと帰ってしまう、という反応があったら、謙遜ではなく本当に例会のレベルが合わないと思われてしまった可能性がありますので、要注意です。

逆に、「不安ではあるけれど、これなら私でもやればできるかも」と勇気を出して入会した人が、数年後には周りを大いに感化するようなスピーカーやリーダーになる例を何回も見てきました。逆に言えば、「私にはできない」という反応は、本人やそのクラブだけではなく、トーストマスターズ全体にとっても機会損失なのです

「完璧なミーティング」を無理に演出しないほうがよい理由は、それだけではありません。全日本レベルのスピーカーは、新クラブがチャーターしてからも毎回来てくれるということは稀で、結局はチャーターしたら自分たちで例会をやることが前提になります。そうすると、「あの時はすごいと思ったけれども…」といった「落差」が生まれる可能性もあります。今までの経験では、この現象は日本語例会以上に英語例会に多い傾向にあるように感じます。

もちろん、無理にレベルを落とす必要はありませんが、「デモミーティングだから」という理由で、「best of best」を背伸びして意図的に集めることは、必ずしも新クラブ会員の増加やその後の例会の質の向上にはつながらない、ということです。

とはいえ、「目指す人が誰もいない」という環境では、モチベーションの高いゲストを逃してしまう可能性がありますし、他クラブから支援に来てくれる会員(サポーター)にとっても、価値の高いスピーチを聞ければ、また来たいという気になれるのではないでしょうか。

そこでお薦めなのは、国際本部のマニュアルにもある「バランス・アプローチ」です。

たとえばスピーカーが3人であれば、1人目は、最近TMに入ったばかりの方。2人目は、基本マニュアル#4〜#8くらいの中級者、3人目はそれ以上、あるいは上級スピーチ、といったように、様々なレベルのスピーカーが話す場を設けることです。

スピーチだけではありません。論評者、ヘルパー、今日のトーストマスターなど、あらゆる役において、経験値にバリエーションを持たせることは効果的です。たとえば、今日のトーストマスター、テーブルトピックスマスター、総合論評が3人とも大ベテランであった場合、進行にミスが少ない傾向はありますが、失敗が許される場であることが見せにくい、いわば予定調和になりすぎるともいえるのではないかと思います。例えば初めての人を今日のトーストマスターやテーブルトピックスマスターに、そしてベテランの総合論評がさらなる改善点を示す、というパターンのほうが、より「心地よい緊張感」「トーストマスターズらしさ」が現れるのではないでしょうか。
(これについては、以前の記事「新しい挑戦」もご参考になるかと思われます。)

実際にチャーター後は、そのような構成で例会が行われるケースもメンバーバランスを考えると必然的に増えてきます。その意味でも、よりチャータークラブの例会に近いデモミーティングを最初から提示することをお勧めします。

posted by Ami Fujiyama, DTM at 20:07 | 東京 晴れ | TrackBack(1) | クラブ設立 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年05月15日

クラブの財政事情と会員への還元(4) - 予算案作成の重要性

このシリーズの最後に、「予算案の作成」について、付け加えたいと思います。見落とされがちですが、クラブ会計マニュアルには、毎年8月1日までに「予算案を作成し、かつクラブのビジネスポーションで役員会および例会で役員・会員の承認を得る」とあります。

私のクラブでも現在は、立ち上げの段階から長期計画・会員数別の予算案を作成しています。ここで、予算案をきちんと作成することのメリットを紹介します。

1. クラブとしての長期プランを描くことに役立つ。
たとえば私の運営するクラブはほとんどが立ち上げクラブですが、どうしても初期投資があるため赤字が発生します。そこで、2年、3年分の予算案を作成し、「どこまでの赤字なら許容できるか? いつ黒字転換を見込むのか?」などの質問への答えに目処をつけます。その上で、黒字転換につながる投資(PRなど)にいくら使うかを決める、というわけです。

これは既存のクラブも同様で、できれば複数年の予算を作成し、毎年その期の会計が訂正を加え・役員会・例会で承認していくことで、長期計画を描きやすくなります。

2.シミュレーションに役立つ。
例えば1年間の平均会員数が25人だったら、30人だったら、35人だったら…と見積もっていくことで、将来の大幅黒字、赤字転換などの予測が立てやすくなります。結果として、もし会費を値上げする、値下げすることがあった場合や、インアクティブ会費を定める際の論拠になります。

3.「行きあたりばったり」なお金の使い方を防ぐ。
ありがちなのが、「お金がありすぎる!」→「使わなくては!」→次々とお金を使っていく→最も大事な「使い時」にお金がなくなる、というパターンです。予算案があれば、それを防ぐことができます。

予算案の作成は、数字が多くてあまり会員からの注目を浴びにくい傾向にあることもあり、どうしても見過ごされがちです。恥ずかしながら、私も過去に立ちあげたクラブでは、見過ごしてきました。

しかし、予算は、クラブとして、その時に重視することやリスク許容度を映す、一つの鏡です。毎年きちんと立案することは、クラブの持続可能性や発展に大きく寄与すると考えます。

そして、「クラブで予算を立てて実行する」というのは、より巨額で複雑なお金の流れと付き合うことになる実際のビジネスの世界をごく簡略化した一つの練習プラットフォームとしても寄与するのではないかと考えています。現実の企業とは比べ物にならないほどクラブの予算案はシンプルではありますし、個別の折衝などもあまり必要ないことがほとんどですが、私も含めた普通の会社員にとっては、

  • 数字に対するアレルギーをなくす
  • シンプルだからこそ、「未来への投資」「長期計画の有用性」などが直接的に実感できる。
といったことにはつながると思います。たとえ非営利・ボランティア運営であっても「お金の使い方」を考えるのは、有用なリーダーシップ訓練になるのではないでしょうか。
posted by Ami Fujiyama, DTM at 09:56 | 東京 晴れ | TrackBack(0) | 書記・会計・各種手続き | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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